女性のお腹にあるハートを包む男女の手

妊娠と流産の正しい知識を身につけよう|流産の基礎知識【医師監修】

2024.07.23
鈴木 凜 先生
監修
鈴木 凜 先生
女性医療クリニックLUNA横浜元町
婦人科外来/トランスジェンダー外来担当
日本産科婦人科学会認定専門医
この記事のポイント
  • 流産について
    流産とは、妊娠したにもかかわらず、妊娠の早い時期(22週未満)に赤ちゃんが亡くなってしまうことを言います。症状・原因によって様々な分類がされています。

  • 流産の要因とは
    自分を責める必要はないケースがほとんどです。考えられる要因を解説していきます。

  • 流産を防ぐためには
    飲酒や喫煙、生活習慣の改善など、流産を防ぐためにできることがあります!
  • 妊娠をすると、大切な赤ちゃんが無事に産まれてきてくれるか、不安になりますよね。

    「流産」は妊婦さんの7〜10人に1人が経験すると言われており、決して珍しいことではありません。
    しかし、流産について語られることは少なく、正しい情報や知識を得る機会が少ないのも現実です。

    より良いマタニティライフを送るために、「流産の過程」や「流産のしくみ」をしっかり理解しておきましょう。

    流産ってどんなこと?

    妊娠検査薬を持つ女性の手元

    妊娠すると喜びと同時に不安な気持ちも生じるものです。その1つが流産への不安でしょう。
    そもそも流産とは、どのようなことを指すのでしょうか?よく知らないことには、不安がつきものです。流産の基礎知識を身につけて、不安な気持ちを和らげましょう。

    そもそも流産とは

    流産とは、妊娠が確定したにもかかわらず、妊娠の早い時期に赤ちゃんが亡くなってしまうことです。

    流産の定義
    妊娠22週より前(赤ちゃんがお母さんのお腹の外で生きるのが難しい週数)に妊娠が終わること。 妊娠12週未満を「早期流産」、12週以降22週未満を「後期流産」と呼びます。

    流産にはさまざまな種類がある

    流産にはさまざまな病態があり、それぞれに名前が付いています。

    原因による分類

    名称 定義 症状や処置
    人工流産 人工妊娠中絶のこと。 経口中絶薬(9週未満)
    手術(12週未満)
    分娩(12週以降)
    自然流産 自然に起きる全ての流産のこと。手術の有無は関係ない。 流産の病態により、症状や処置はさまざま。

    症状による分類

    名称 定義 症状 対処方法
    稽留流産
    (けいりゅう)
    お腹の中で赤ちゃんは亡くなっているが、出血や腹痛などの症状がない。 自覚症状なし 自然に排出を待つ。
    もしくは手術で子宮内容物を取り除く。
    進行流産 出血がはじまり、子宮内容物が外に出てきている状態。「完全流産」と「不全流産」にわけられる。 出血、腹痛 自然に排出を待つ。
    不全流産の場合は手術で子宮内容物を取り除く。
    完全流産 子宮内容物がすべて自然に出てしまった状態。 出血や腹痛は内容物が排出された後は軽快することが多い。 自然に経過をみる。
    場合によっては子宮収縮剤を追加する。
    不全流産 子宮内容物が出始めているが、完全に排出されず、一部が残っている状態。 出血や腹痛が続くことが多い。 手術をすることが多い。

    その他の病態

    名称 定義 対応
    反復流産 流産を2回繰り返すこと。
    頻度は2-5%ほど。
    (医師と相談し)原因検索のため検査を行うこともある。
    習慣流産 流産を3回以上繰り返すこと。
    頻度は1%程度。
    血液検査で判明する疾患、子宮の形の異常、カップルの染色体異常などが原因としてあるため、専門機関で精密検査を行うことがある。
    化学的流産 妊娠検査薬で妊娠反応は出たが、超音波検査で妊娠が確認できる前に流産してしまった状態。 治療の必要はなく、経過観察する。

    流産の確率はどのくらい?

    妊娠年齢にもよりますが、妊娠全体の約15%が流産に至ります。とくに、妊娠12週未満の早い時期での流産が8割以上であり、妊娠12週を過ぎると、流産の確率が大きく下がることがわかっています。

    流産の確率は、20代では10%前後です。母体年齢が上がるほど流産の確率も上昇し、高年妊娠と言われる35歳以上の場合、流産の確率は約20%、40歳以上の場合、約半数が流産になると言われています。

    流産は、稀なことではなく多くの女性が経験しています。

    なぜ流産してしまうの?

    悲しそうな女性を慰める男性

    流産すると、「自分になにか要因があったのでは?」と自分を責めてしまう女性は少なくありません。しかし、実際には自分を責める必要がないケースがほとんどです。

    妊娠12週未満の「早期流産」と12週以降22週未満の「後期流産」、それぞれの流産の原因を解説します。

    早期流産の場合

    早期流産と呼ばれる、妊娠12週未満に起こる流産のほとんどは、赤ちゃんの染色体異常によるものです。

    つまり、受精の段階で流産する運命が決まっていると言うことができます。
    お母さんの動きすぎや働きすぎは要因ではありません。
    よく心配されるような、精神的なショックや軽い怪我(滑る、転倒するなど)も流産と無関係ですので、決して自分のことを責めないでください。

    妊娠に気づいていない期間の飲酒、喫煙、薬の内服も大きな要因とならないことが多いです。しかし、妊娠に気づいたら飲酒・喫煙はすぐにやめ、常用薬がある場合は産婦人科で相談しましょう。

    後期流産の場合

    12週以降の後期流産は、考えられる原因は多岐にわたります。
    お母さん側の要因として考えられることは以下のとおりです。

    流産の要因の可能性がある事柄
    ・飲酒や喫煙、過度なカフェイン摂取(コーヒー1日2杯まで)
    ・特定のくすり、コカインなどの薬物
    ・慢性的なストレス(免疫力やホルモンのバランスが乱れる)
    ・感染症にかかっている(風疹、梅毒、パルボウイルスB19など)
    ・コントロールの悪い持病がある(高血圧、糖尿病、甲状腺疾患など)
    ・肥満(BMI>25)
    ・子宮の形に異常がある

    流産経験者は、2度目以降の妊娠も流産の確率が上がります。流産の回数が多いほど再び流産になるリスクが高くなるのです。

    流産を繰り返す場合は「不育症」であることも考えられます。「不育症」とは、妊娠はできるが赤ちゃんが育たずに流産や死産を繰り返すことです。その場合は医師と相談して検査を行い、原因が分かれば治療を始めていきます。

    流産に兆候はあるの?

    妊娠中は、お腹の赤ちゃんの様子が気になってしまうものです。流産の兆候となるサインがあるなら、ぜひ知っておきたいという方も多いのではないでしょうか?
    ただし、あまり気にしすぎるのもストレスになってしまうことも。兆候に関しては、知識として頭の片隅に入れておきましょう。

    流産のサインとは

    流産の前には、鮮紅色または暗赤色の少量、もしくははっきりとわかる出血が起こり、子宮が収縮して月経のような下腹部痛が起こります。

    しかし、すべての流産に症状があるわけではなく、赤ちゃんが子宮内で亡くなっていても、下腹部痛や出血を起こさないこともあり、その場合は予測することは困難です。

    また、妊娠初期の出血や下腹部痛は正常の妊娠でも起こることがあります。
    そのため、症状だけでは流産なのかは判断しにくいでしょう。

    エコー検査で子宮内に赤ちゃんの袋が確認できておらず、出血量が多い場合や下腹部痛が強い場合は、異所性妊娠(子宮の外で妊娠している状態)のおそれがあるため、夜間、時間外でも医療機関を受診する必要があります。

    そのため、妊娠検査薬で妊娠がわかったら、まずは子宮内に妊娠しているか産婦人科での確認が必要です。

    出血や下腹部痛以外の流産の兆候
    ・胸の張りが急になくなる
    ・つわりが急になくなる
    ・基礎体温が下がる

    症状だけでは判断できないため、心配な場合は医師の診察を受けましょう。

    早期流産は気づきにくい

    妊娠初期の早期流産の場合、母体に異常がなく、症状がないこともあり、自分では気づかないうちに流産していたというケースも多くあります。

    妊婦健診でエコーをして、はじめて流産に気づくケースも少なくありません。

    気づかなかったことで自分のことを責めないでくださいね。

    もし流産してしまった場合はどうしたらいい?

    もし流産してしまった場合、お腹の中の赤ちゃんが亡くなってしまったという事実に大きなショックを受けるでしょう。その気持ちを受け止めながらも、赤ちゃんのためにも母体のためにもやらなくてはいけないことがあります。

    流産かどうか確かめる方法

    超音波検査をする真剣な表情の女性医師

    流産の診断は、超音波検査で行います。
    流産の症状があっても、胎児が子宮内に残っており、心拍が確認できたら、流産の一歩手前である「切迫流産」の状態です。

    切迫流産の場合、そのまま妊娠を継続できることもありますし、残念ながら流産になってしまうこともあります。

    実は、切迫流産にはエビデンスの高い治療法は存在しません。絶対安静にする必要はないですが、出血や腹痛が続いている状況では仕事を休んだり、仕事内容を考慮してもらった方が良いでしょう。

    担当医師の指示に従い、定期的な診察を受けてください。

    治療が必要なケースも

    完全流産、化学流産に対して治療の必要はありません。

    稽留流産や不全流産の場合、母体の身体状態が悪くないのであれば自然に排出されるのを待ちます。

    医療機関によって、自然に排出されるのを待つ、もしくは流産の手術を受ける、どちらかを選択できることもありますが、自然に出てこない場合には手術が必要になります。

    自然排出しても、妊娠組織が完全に排出されなかった場合は、処置が必要になることもあります。

    妊娠12週以降の後期流産の場合は、薬を使用して子宮の収縮を促すことで赤ちゃんと胎盤を排出させる方法もあります。この場合は、手術ではなく分娩と同じ方法になります。

    流産の手術とは

    自然排出されない時には手術が必要です。手術は12週未満でしか行えないため、それまでに自然排出されなさそうな場合には手術が予定されます。

    必要な検査を事前に行い、麻酔を施し、手術は10分程度で終了します。

    母体の状況によって入院期間は異なりますが、一般的には午前中に入院し、午後に手術を受けて、翌日退院になるケースが多いです。なかには日帰り手術となるケースもあります。

    術後の出血は1週間ほど続き、その期間は子宮収縮薬や感染症予防の薬を服用するよう指示されることもあるでしょう。

    医師の指示に従い、薬の服用が必要な場合は、忘れずに服用を続けましょう。

    流産を防ぐためにはどうしたらいい?

    流産は、安静にして、無理をしなかったら防げるというものではありません。
    しかし、妊娠前にできることはあります。

    妊娠前にできること

    予防接種

    流産の原因となる感染症には予防できるものがあります。
    風疹は妊娠するとワクチン接種ができなくなるため、免疫がついていない場合には予防接種を済ませましょう。

    禁煙

    認印を考え始めた時点で禁煙しましょう。可能であれば同居人にも禁煙をしてもらい、禁煙が難しければ分煙の習慣をつけてもらいましょう。

    生活習慣の改善

    できることから改善することが大切です。バランスの良い食生活や十分な睡眠、適度な運動など規則正しい生活を送り、生活習慣を改善しましょう。

    基礎疾患の治療

    何かしらの基礎疾患(高血圧、糖尿病、甲状腺疾患など)がある場合には、妊娠前にコントロールしておきましょう。

    流産の正しい知識を身につけましょう!

    パソコンで調べ物をする妊婦

    残念ながら流産は一定の確率で起こることであり、特別な予防方法もありません。流産の要因に関しても、染色体異常によるケースがほとんどであり、お母さんが悪くないことが多いです。

    ですが、妊娠・出産に向けて、流産の正しい知識を身につけておくことは何よりも大切です。パートナーともぜひ共有して、より良いマタニティライフを過ごせるようにしましょう。

    この記事を書いた人

    odoriba編集者サムネイル

    オドリバ編集部

    「オドリバ」は女性の悩みに寄り添うメディア。性・カラダ・こころをメインテーマに、ライフステージを駆け上がる女性たちがひと休みできる「踊り場」のように、こころの拠り所になることを目指し誕生しました。

    この記事をSNSシェアしよう

    関連記事