生理痛や生理の量が多いといった症状があったり、避妊を考えたりしたときに産婦人科を受診すると、「ミレーナ」を提案されたことがある方がいるかもしれません。
同じような症状に対する治療法でピルが思い浮かぶ方は多いものの、ミレーナはあまりなじみがない方法かもしれません。今回は、ミレーナの基本情報から具体的なメリット・デメリット、装着後の注意点まで、徹底的に解説します。
ミレーナとは?

ミレーナは、正式名称をレボノルゲストレル子宮内放出システム(Levonorgestrel Intra Uterine System:LNG-IUS)といい、日本で使用可能な子宮内避妊器具の一つです。
柔らかいT字型の形状をしている器具で、内診台で腟から子宮内に挿入します。先端には糸が付いており、器具を外す時にはその糸を引っ張ることで抜去できます。
本体にはレボノルゲストレルという黄体ホルモンが付着しており、持続的に放出されることで避妊や過多月経、月経困難症(生理痛)の改善に効果があります。
ミレーナの目的
ミレーナの目的は、主に以下の2つです。
過多月経、月経困難症(生理痛)の改善
ミレーナから放出される黄体ホルモンには、子宮内膜の増殖を抑える効果があります。このホルモンの作用によって子宮内膜が薄くなり、月経時にはがれ落ちる内膜の量やそれに伴う出血が少なくなります。その結果、月経量が減少するとともに、生理痛が軽くなることが期待されます。
避妊効果
ホルモンの作用により子宮内膜を薄くさせる効果があるため、受精卵が着床しにくくなります。また、子宮の入口の頸管粘液を変化させるため、精子が腟内へ侵入しにくくなることで避妊効果を発揮します。
ピルとどう違うの?
避妊や生理痛の緩和を目的とした治療では、ミレーナの他にピルも選択肢の1つです。ここでは、その違いについて見てみましょう。
避妊効果
【ミレーナ】99.5〜99.9%
【ピル】99.7%
生理痛の緩和
【ミレーナ】効果あり
【ピル】効果あり
使用方法
【ミレーナ】挿入後、最長5年そのまま(5年以内に交換)
【ピル】毎日定時に内服
代表的な副作用
【ミレーナ】不正出血、挿入時や抜去時の痛み
【ピル】嘔気、頭痛、血栓症
費用
【ミレーナ】10,000〜50,000円/最長5年(保険、自費による)
【ピル】1,000〜3,000円程度/月(保険、自費による)
PMSの緩和
【ミレーナ】効果なし(排卵は起きるため)
【ピル】効果ありある(排卵がなくなり、ホルモンの変動がないため)
使用開始時の注意点
【ミレーナ】①挿入時痛みが強い ②子宮口が狭いなどで挿入できない人がいる
【ピル】①特に使用開始時に血栓症のリスクがやや高い ②片頭痛の有無、喫煙歴、年齢により使用できない人がいる
お勧めする人
【ミレーナ】出産経験がある人、飲み忘れが心配な人、ピルが使えない体質の人
【ピル】出産経験がない人、内診が怖い人、子宮の形が変形している人
消退出血(生理のような出血)
【ミレーナ】20%の人は出血がなくなる
【ピル】周期投与なら月1回、連続投与なら最長120日に1回
ミレーナとピルにはそれぞれメリット・デメリットがあり、どちらが適しているかは個人の体質やライフスタイルにもよります。そのため、どちらが向いているか、医師とよく相談しましょう。
ミレーナのメリット
これまで述べてきたように、ミレーナの大きなメリットとしては下記の点があります。
- 生理痛が改善する
- 生理の量が減る(人によっては生理が無くなる)
- 避妊効果がある
他にも、以下のようなメリットがあります。
子宮体がんのリスクが減る
ミレーナから放出されるホルモンの影響により子宮内膜が薄く保たれることで、子宮体がんのリスクが減るとの報告があります。また、その他の代表的な婦人科がんである、子宮頸がんや乳がんなどの発生リスクは上昇しないとされています。
ピルが使用できない人でも使用できる
喫煙や年齢などの理由でピルを使えない人にも、ミレーナは選択肢となり得ます。
例えば、40歳以上、喫煙者、肥満、前兆のある片頭痛の方など、ピルが適さないケースでも、ミレーナは使用できる可能性があります。
最長5年まで効果が持続し、飲み忘れ等の心配がいらない
ミレーナ装着後、定期的に受診し、位置や感染症の問題がなければ最長5年間普段通りの生活ができます。ピルのように飲み忘れて効果が低下する心配はありません。
ミレーナのデメリット
ミレーナは多くのメリットがある一方で、いくつかの注意点やリスクも存在します。以下に、具体的なデメリットについて詳しく説明します。
挿入時~挿入後、抜去時に痛みや不正出血がある
子宮の入口(子宮口)は本来非常に狭く、人によっては曲がっており、2-3mm程度の検査の器具を入れるのも難しいほどです。出産経験のある人では一度大きく子宮口が広がっているため挿入しやすいのですが、帝王切開や出産経験のない方では挿入が難しいことがあります。そのため、出産経験のない方や内診に抵抗がある方は第1選択にはしないこととされています。
装着後、自然脱出の可能性がある
子宮のサイズや、子宮筋腫・子宮腺筋症など子宮の形を変形させるような病気がある方は自然に脱出することがあります。出血や痛みで気づくこともありますが、気づかないうちに脱出している方もいます。
骨盤内炎症性疾患、子宮外妊娠を起こす可能性がある
子宮内に異物を入れるため、稀に感染がおこり、卵管や腹膜まで炎症が及ぶ骨盤内炎症性疾患を起こすことがあります。また、ミレーナは避妊効果は非常に高いものの100%ではありません。ミレーナを挿入中に妊娠した場合、その半数が異所性(子宮外)妊娠であるという報告があります。
子宮穿孔(穴が開く)のリスクがある
子宮は筋肉でできている臓器であり、プラスチックと言えど挿入時に子宮を貫通してしまうことがあります。特に出産後6週間以内、授乳中の方はそのリスクが高いので注意が必要です。
ミレーナは体質に合う方にとっては有効で便利な治療法ですが、最初の1年間に出血、痛み、自然脱出のため中止する方は約20%程度いると言われています。
ミレーナを快適に使うためのポイント

ミレーナはいくつかの注意点を守っていれば、生活の質が上がり、快適に過ごすことができます。そのポイントを説明します。
医師の指導のもと適切な時期に挿入・交換する
ミレーナは正しく装着されていれば長期間効果が持続しますが、装着後5年を超えないようにしましょう。5年を超えると効果が低下する可能性があります。取り出したときに同時に新しいものを装着できます。
避妊効果と性感染症予防について理解しておく
ミレーナは高い避妊効果がありますが、100%ではありません。また、クラミジアや淋病などの性感染症を防ぐ効果はないため、コンドームの併用も考慮しましょう。
自然脱出のリスクや副作用を未然に防ぐため、定期的に受診する
先天的に子宮の形に異常があったり、子宮筋腫や子宮腺筋症がある方はミレーナが自然に脱出することがあります。装着後3か月以内、1年後、以後1年に1回、装着位置の確認が必要です。
検診時に事前申告をする
ミレーナ挿入中の場合、子宮頸がん検診で注意が必要です。
子宮頸がん検診は、定期的に行うことで子宮頸がんによる死亡率を明らかに減らすことができます。ミレーナを挿入している年代の方に起きやすいがんのため、必ず受けていただきたい検診です。検診の際には柔らかいブラシで子宮頸部の細胞を擦りますが、使用するブラシによってはミレーナが脱出してしまう可能性があるため、検査ができないことがあります。
検診を受ける前に必ずミレーナが入っていることを申告し、検査が受けられるか確認しましょう。
ミレーナ装着後、こんな症状があれば医師に相談を

ミレーナ装着後数日間は、出血、下腹痛、おりものの増加などが見られることがあります。
ただし、長期間続く場合や、下記のような症状があるときは、何らかの異常が起きている可能性があるため受診しましょう。
月経パターンに大きな変化がある
月経の頻度や出血量が通常と異なる場合、ミレーナが正しい位置に装着されていなかったり、自然脱出や妊娠の可能性があります。以下のような症状が見られた場合は医師に相談してください。
- 多量の性器出血が見られる
- 装着後数ヵ月経って月経以外の期間に出血が継続してみられる
- 出血量が増えたり、出血パターンが変化した
- 前回の月経から6週間以内に月経がない場合や、吐き気、嘔吐、食欲低下など妊娠を疑う兆候がある
- 月経が遅れ、下腹部痛があったり、生理がないはずの方で出血が始まるなど異所性(子宮外)妊娠を疑う兆候がある
持続的な腹痛や異常な出血がある
ミレーナの装着後に持続的な腹痛や異常な出血がある場合は、妊娠や子宮穿孔の可能性があります。
- 持続的、または急激なお腹の張り
- 下腹部の痛みや異常な出血
感染症を疑う症状(発熱・おりものの変化など)がある
以下の場合は、性感染症や骨盤腹膜炎を起こしている可能性があります。
- おりものの増加、悪臭、外陰部のかゆみ
- 発熱を伴う下腹部痛
- 性交痛又は性交後出血
性交時にミレーナの糸があたる
まれに、性交時にパートナーがミレーナの除去糸にあたり、不快感や陰茎痛を訴えるケースがあります。このような場合は、ミレーナが脱出していたり、正しい位置にないことがあります。
ミレーナのメリット・デメリットを知り、自分に合った選択をしよう
ミレーナは、体質が合う方にとってはピルと同等、またはそれ以上に生活の質向上が期待できる治療法です。生理痛や月経過多、避妊法について悩みがある方は、産婦人科で相談してみましょう。