ベッドで背中を向き不機嫌そうな男女

【医師監修】セックス後にうつっぽくなるのは性交後憂鬱(PCD)かも?原因と対処法を解説!

2025.07.01
川合 厚子 先生
監修
川合 厚子 先生
クリニック院長
内科、精神科を担当 医学博士、日本内科学会総合内科専門医、日本精神神経学会専門医、公認心理師、労働衛生コンサルタント、産業医

セックスのあと、突然涙が出たり、落ち込んだりした経験はありませんか?

幸せな気持ちになるはずなのに、「どうしてこんな気分になるの?」と戸惑ってしまうこともあるでしょう。そのような状態は「性交後憂鬱(PCD)」と呼ばれ、一定の割合で起きることが研究により報告されています。

この記事では、性交後憂鬱の定義や原因、予防法などを解説します。

セックス後に落ち込む「性交後憂鬱(せいこうごゆううつ:PCD)」とは

ベッドの上で悩む女性

性交後憂鬱(Post-coital Dysphoria:PCD)とは、合意の上でおこなったセックスの後に、以下のような否定的な感情・状態があらわれることです。

  • 悲しみ
  • 涙が出る
  • 抑うつ・不安
  • 興奮
  • 攻撃性

たとえば、「ぽっかり心に穴があいたような気分」「ホームシックのような感じ」と表現する人もいます。

この現象は男女どちらにもあらわれ、男性は35.3%、女性の31.2%が経験したことがあるという研究結果があります。

性交後憂鬱は誰にでも起こりうるもので、病気ではありません。そのため、「セックスを楽しめなくてパートナーに申し訳ない」と、自分を責める必要もないのです。

性交後憂鬱が起こる原因

性交後憂鬱の原因は、一つに限定されるものではなく、精神的なストレスや性格、性行為の満足度など、複数の要因が絡み合って発生すると考えられています。

精神的ストレスや不安の影響

性交後憂鬱は、うつ症状や不安感、精神的ストレスなどに関係する可能性があるとされています。

実際に、過去4週間に強いストレスや心理的な苦痛を感じていた人は、性交後憂鬱を経験しやすいという報告があります。セックス後に気分が落ち込む背景には、こうした心の不安定さが影響しているのかもしれません。

また、男性の場合は「愛着スタイル(他者との心理的距離の取り方)」が性交後憂鬱に関係するとの指摘もあります。ただし、女性ではこの愛着スタイルと気分の落ち込みとの間に、明らかな関係性は見られていません。

このように、性交後憂鬱には心理的な要因が深く関わっており、男女で原因が異なる点も大きな特徴といえるでしょう。

性的満足度や性機能との関係性

女性の性的満足度や性機能の低下も、性交後憂鬱に関係があるとされています。

特に、女性の性機能を測る指標である「FSFI(女性性機能指数)」では、欲求や興奮、潤滑、オーガズム、痛み、満足感といった複数の項目を総合的に評価します。このスコアが低い人ほど、セックス後に気分が落ち込みやすい傾向が見られました。

また、精神的なストレスが強い人ほど、性機能が低下しやすいという研究結果もあります。ストレスが溜まると性機能の低下を招き、セックス後の気分にも影響を与える可能性があるのです。

「性的満足度や性機能が低いと性交後憂鬱が起こる」というわけではありません。ただ、「気持ちよくなかった」「思うようにイケなかった」など、満足感に欠ける経験が、気分の落ち込みにつながる可能性は十分に考えられます。

心理的要因が絡む性交痛については、以下の記事でも詳しく紹介しています。

パートナー以外とのセックスやオナニーとの関係

セルフプレジャーアイテムを手にもつ女性

性交後憂鬱は、セックスの相手や状況によっても起こりやすさが異なります。

具体的には、恋愛関係にあるパートナーよりも、パートナー以外(一夜限りの相手やセックスフレンド)とのセックスの方が起こりやすい傾向です。また、パートナー以外とのセックスほどではないものの、オナニー(マスターベーション・自慰行為)でも気分の落ち込みは報告されています。

ある調査によると、女性において各状況で性交後憂鬱が起こる確率は、以下のように報告されています。

恋愛関係にあるパートナーとのセックス:11.4%
パートナー以外とのセックス:77.1%
オナニー:51.4%

こうした違いは、行為の満足度だけでなく、相手との心理的なつながりの深さや、セックスに対する価値観によっても影響を受けると考えられます。
とくに、心の準備が整わないまま関係を持ってしまった場合や、行為後に後悔が残るような状況では、性交後に不安感や虚しさが強くなるのかもしれません。

性交後憂鬱と似ている・勘違いされやすい病気

性交後憂鬱は病気ではありませんが、似た症状を持つ病気はいくつか存在します。

たとえば、気分の落ち込みや意欲の低下が長期間続く「うつ病」は症状の一部が似ているため、性交後憂鬱と区別がつきにくいケースがあります。

また、女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)の変動によるPMS(月経前症候群)やPMDD(月経前不快気分障害)で、気分が不安定になる方もいます。月経がある方の70〜80%は月経前に何らかの不調を経験すると言われており、気分の落ち込みは決して珍しいものではありません。

セックス後のうつっぽい気分が月経周期と関係していると感じた場合は産婦人科へ、気分の落ち込みが1日中続いて日常生活に支障が出るようであれば、心療内科の受診を検討するのも一つの方法です。

PMDDや女性のうつ病については、以下の記事も参考にしてみてください。

セックス後の「うつっぽい気分」を軽くする!自分でできる予防と対処法

セックス後に気分が沈むことがあっても、すぐに医療機関を受診しなければならないわけではありません。

症状が軽い場合は、まず心と身体のセルフケアを試してみてはいかがでしょうか。ただし、気分の落ち込みが強い場合は早めの受診も検討してみてください。

ストレスを減らし心の健康を整える

日常的なストレスや不安感は、セックス後のうつっぽさと関係があります。

仕事や人間関係などで心に余裕がないと、セックス後に気分が落ち込みやすくなる可能性があります。まずはゆっくりと休み、今の気持ちをそのまま受け止めてみましょう。誰かに話を聞いてもらったり、軽い運動をしたり、日記に気持ちを書き出したりするのも効果的です。

ストレスを一人で抱え込まない工夫が、心の安定につながります。

パートナーと話し合いセックスの満足度を高める

セックス後の気分は、「行為そのものの満足度」だけでなく、「相手とのつながりの深さ」にも影響されます。たとえ信頼関係があるパートナーとでも、「こうされると嬉しい」「もっとこうしたい」といった気持ちを日々すり合わせることは、満足度の向上に欠かせません。

安心感や心地よさを共有できる関係性を築くことが、セックス後のうつっぽさを軽くする助けになるかもしれません。

また、女性の場合、パートナー以外とのセックスは気分が落ち込む確率が高いという報告もあります。「セフレ」のような曖昧な状態が続いている場合は、相手との関係性のあり方や自分の気持ちに無理がないかを見直すことも一つの方法です。

セックスの満足度を高めるオーガズムについては、以下の記事も参考にしてください。

自分にとって快適な性のあり方を探す

ベッドの上でおでこを寄せあい眠るカップル

性に対する感じ方や価値観は、人それぞれ異なります。「友達が言っていたから」「パートナーが好むから」といった理由で周囲の基準に合わせすぎると、無理をしたり罪悪感を抱いたりしやすくなるケースもあるでしょう。

たとえば、オナニーに対する罪悪感が強いほど、セックス後のうつ症状が起こりやすいという指摘もあります。オナニーは「セルフプレジャー」とも呼ばれ、正しく行えば心身に悪いものではありません。周囲と比べるのではなく、自分が心地よいと感じるペースや関わり方を大切にすることが、気分の安定にも役立ちます。

セルフプレジャーについては、以下の記事も参考にしてみてください。

セックス後にうつっぽくなるのはあなただけじゃない

セックス後のうつっぽさは性交後憂鬱(PCD)と呼ばれる症状で、一時的なストレスや心の状態の影響などにより、誰にでも起こりうる心の変化です。

パートナー以外とのセックスやオナニーの後に起こりやすい傾向はありますが、恋愛関係にあるパートナーとのセックス後にも起こることはあります。

そのため、「自分がおかしいのでは」「好きな人なのにどうして」などと悩みすぎる必要はありません。まずは自分を大切にして、快適な性のあり方やセックスの満足度について見つめ直してみましょう。

もし落ち込みが長く続くようであれば医療機関を受診し、専門家へ相談するのも一つの方法です。一人で抱え込まず、自分自身を大切にすることから始めてみてください。

この記事を書いた人

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南尾優香

医療や健康に関する記事を執筆している、現役薬剤師ライター兼ディレクター。「正しい情報を、読者に響く形でお伝えする」をモットーに、日々活動しています。

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