「乳がんになるとしこりができる」と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。乳がんは日本人女性のがんの中で最も多く、普段からのセルフチェックが大切です。しかし、「セルフチェックだけで見つけられる?」「しこりがあったらどうすればいい?」と不安に思う方もいらっしゃるでしょう。
今回は、乳がんのしこりの特徴やセルフチェックの方法、乳がん検診の重要性を解説します。
乳がんとは?
乳がんは、乳腺組織にできる悪性腫瘍です。女性だけの病気ではなく、男性でも発生する可能性があります。
乳がんの多くは乳管に発生し、進行するとリンパ節、骨、肝臓、肺、脳など、ほかの臓器に転移するリスクがあります。最も多い症状は「しこり」で、大きさや感触、発生部位はさまざまです。
ステージが進むほど生存率が低下するため、早期発見・早期治療が非常に重要となります。ステージⅠで発見できた場合、女性の5年生存率は98.9%と高く、治癒率も期待できます。
日本人女性の乳がん罹患率・発生要因
日本人女性の乳がん罹患率(診断される割合)は、年々増え続けています。2020年には91,531人と、となりました。これは、およそ9人に1人が乳がんになる計算になります。
乳がんの罹患率は30歳代後半から急増し、40~60歳代でピークを迎えるため注意が必要です。しかし、若年層の乳がんの進行は早い傾向にあるため、年代関係なく早期発見の意識を持つといいでしょう。
また、乳がんの危険因子として、以下が知られています。
- 閉経後に長期のホルモン補充療法を受けている(受けた)
- 閉経後に肥満傾向がある
- 運動をあまりしていない
- 喫煙歴がある
- 過度の飲酒をしている
- 乳がんに罹った家族がいる
乳がんのしこりの特徴
乳がんは、自分で硬いしこりを自覚して気づくことがありますが、乳がん以外でもしこりができることがあります。
乳がんのしこりの特徴として挙げられるものは、以下の通りです。
- 硬い
- デコボコしている
- 触ってもコロコロと動きにくい
乳頭からの分泌物や皮膚の引きつれなど、しこり以外の症状で乳がんに気づく場合もあります。しかし、乳がんに気づいたきっかけは、半数以上から約70%がセルフチェックだったという報告もあります。
日頃から胸にしこりができていないか、ほかに症状はないかを気にすることが大切です。
乳がんのしこりをセルフチェックする方法

ここで、乳がんのしこりをセルフチェックする具体的な方法をご紹介します。
普段の自分の乳房の状態を知っておくと、変化に気づきやすくなります。
セルフチェックで確認するポイント
セルフチェックで確認するポイントは、以下のようなものが挙げられます。
- しこりがあるか(硬さ・大きさ・動きやすさはどうか)
- 乳頭からの分泌物が出ていないか
- 皮膚の凹みや引きつれがないか
- 乳房や脇の下の痛みや違和感がないか
セルフチェックの頻度
セルフチェックの頻度は厳密に決まっていませんが、毎月1回の習慣化が望ましいでしょう。
「毎月生理の後にチェックする」、閉経している方は「毎月1日にチェックする」など、日常生活の中で気軽に取り入れられるタイミングを設定すると、忘れずに続けやすくなります。
女性ホルモンの変化で乳房の状態も変化するため、生理前後で乳房の張りなどの感覚が変わることがあります。一般的に、生理後は乳房が柔らかくなってセルフチェックに向いているとされています。生理後4日目以降を目安にしてみてください。生理が終わっても続く痛みや、しこり、皮膚の変化には注意しましょう。
妊娠中の方は、気になる点があれば妊婦健診時などに相談しましょう。
セルフチェックの具体的な方法
現在は「生活習慣の中で、気軽に乳房を意識する(ブレスト・アウェアネス)」ことが推奨されています。しこりに限らず、乳房に変化がないか気をつけることが大切です。
セルフチェックの詳細な方法を見ていきましょう。
入浴時にチェック
泡立てた石鹸をつけた手で「の」の字を書くように、指先で軽くなでるようにして乳房全体にしこりがないかどうか確かめます。石鹸で指が滑りやすくなり、しこりが見つけやすくなるためです。
4本の指を揃えて腋(わき)の下に入れ、乳房の横から乳頭に向かってなで下ろすように触りましょう。両手を挙げた状態と下げた状態の両方で行えると理想的です。
乳房だけでなく、腋の下にしこりがないかもチェックしましょう。

鏡の前でチェック
着替える時などに鏡を利用して、明るい場所で目で見て確かめます。両腕を広げ、しこりがないか、乳房にくぼみや膨らみがないか、乳房の大きさに差がないかなどを確認しましょう。
入浴時のチェックと同じように、手を挙げた状態と下げた状態、さらに両手を腰に当てて胸を張った状態でチェックできるといいです。前傾姿勢や左右に体を動かした状態などで左右差がないか確かめてみてください。
乳頭の引きつれや凹み、変色がないかどうかもチェックしましょう。

横になった時にチェック
立っている時にわかりにくいしこりもあります。横になった時にも乳房全体を確認しましょう。乳房組織が広がるため、しこりを見つけやすくなるためです。チェックする方の腕を頭の上に挙げて触ってみてください。
もし余裕があれば、背中の下に低めの枕やタオルを入れてみましょう。乳房がさらに平らになるため、触って気づきやすくなります。

セルフチェックでしこりを見つけたら?

しこりに気づくと「どうしよう」と不安になったり慌てたりするかもしれませんが、まずは落ち着いて対処しましょう。しこりがあるからといって、必ず乳がんとは限らず、線維腺腫や嚢胞、乳腺症といった良性の可能性もあります。
とはいえ、セルフチェックでしこりに気づいた場合、乳がんの早期症状の可能性は否定できません。分泌物の有無や乳頭の変化などのほかの異常がないかも確認し、なるべく早く乳腺外科を受診して医師に相談しましょう。
早期発見・早期治療につなげるため、異変に気が付いたら迷わず受診して大丈夫です。
乳がん検診の受診も忘れずに
セルフチェックで変化に気づくことは重要ですが、セルフチェックだけでは発見できない乳がんもあるため、定期的な乳がん検診も忘れずに受けることが大切です。
日本では、「40歳以上の女性を対象に、2年に1回のマンモグラフィ受診」が推奨されています。
乳がん検診の重要性
乳がんの初期段階では自覚症状がないことが多く、セルフチェックだけでは気づけない場合があります。特に、乳がんが疑われる石灰化や小さなしこりは、マンモグラフィなどの検診でしか発見できません。
また、乳房には乳がん以外の良性腫瘍や炎症性疾患が発生することもあり、検診を受けることで、それらの異常も早期に確認できます。乳がん検診は、病気の早期発見・早期治療に役立ち、死亡率を下げると証明されています。
乳がん検診の検査法は2種類
乳がん検診の検査にはマンモグラフィと超音波検査があります。どちらも乳房を画像として映し出し、異常がないかを調べる検査ですが、画像化する原理や見つけるのが得意な病変が違います。
マンモグラフィはX線を使用する検査で、乳がんが疑われる石灰化を発見しやすく、科学的に乳がんの死亡率を低下させると認められています。
その反面、乳腺が発達している乳房ではマンモグラフィに病気がうつりにくくなるため、特に、乳腺が発達している20~30歳代の若い世代には超音波検査が適しているでしょう。超音波検査は痛みを伴わず、放射線被ばくもないため、定期的な検診として気軽に受けやすい点がメリットです。
自分の年齢や乳房の状態に合わせて、どちらの検査が適しているか医師と相談しながら、最適な方法を選びましょう。
セルフチェックと検診を併用して乳がんの早期発見を!

乳がんのしこりは、セルフチェックで発見可能です。実際に、乳がんの半数以上はセルフチェックで見つかっているというデータもあります。着替えや入浴などのタイミングで、普段から自分の乳房の様子をチェックする習慣をつけましょう。
ただし、セルフチェックだけでは発見できない乳がんもあります。定期的な乳がん検診も併せて受けると、より早期発見の可能性が高まります。
しこりや乳房の変化に気づいたら、自己判断せずに乳腺外科を受診し、適切な治療につなげましょう。