DVという言葉はよく知られていますが、デートDVとの違いを正しく理解している人は多くないのではないでしょうか。デートDVとは、恋人同士の間で起こる暴力や支配行為のことを指します。「私の彼氏は暴力まで振るわないから違う」と思っていても、小さな違和感を放置すると暴力に発展することもあるのです。
この記事では、デートDVの特徴やDVとの違い、防ぐ方法、対処法について解説します。
デートDVとは?DVとの違いを知ろう
恋人ができると、毎日が楽しく嫌なことも乗り越えられることもありますよね。しかし、恋人との関係で違和感を感じたり、恋人のちょっと圧の強い態度に困ったり不安になったことはないでしょうか。
「DV(ドメスティック・バイオレンス:domestic violence)」とは明確な定義はないものの、「配偶者や恋人など親密な関係にある、またはあった者から振るわれる暴力」を意味します。DVは夫婦間の暴力をさすことが一般的ですが、特に、恋愛関係にある恋人との間で起こるDVのことを「デートDV」と呼びます。
DVやデートDVで最も重要な問題は、二人の間に『相手を支配(コントロール)する関係』ができてしまっていることです。
デートDV、なぜ気づきにくい?
デートDVには、殴る・蹴るといった身体的暴力以外に、言葉の暴力や精神的な暴力など、一見DVと認識しづらいものも含まれます。
そのため、「どこからがDVで、どこからが単なる喧嘩なのか」と悩む人も多いのではないでしょうか。
デートDVには「殴る」といった明らかな暴力的行為と対等な関係の間に、グラデーションのようなグレーゾーンがあります。例えば「束縛は愛情の証拠」「相手を独占したいと思うのは恋愛関係なら当然」といった考えを持っていると、知らず知らずのうちに「支配―被支配」の関係が生まれることがあります。
「やきもちを焼かれるのは愛されている証拠」と思っていたら、気付かないうちにデートDVにつながる可能性もあるのです。
これはデートDV?チェックリストで確認しよう

デートDVの主な暴力には、大きく分けて以下5つのタイプがあります。
- 身体的暴力
- 経済的暴力
- 言葉の暴力
- 精神的暴力
- 性的暴力
デートDVには「明らかな暴力」と「グレーゾーンの行為」があり、後者は気付きにくいことが特徴です。グレーゾーン行為は一見DVと気付きにくく、DVとなり得るかどうかは、「行動の自由」「意見自由」「安心・安全」などが損なわれていないかが重要です。
以下、5つのタイプごとに具体的な例をチェックリストとしてあげていますので、あなたの関係を振り返ってみてください。
身体的暴力
- ちょっとしたことで頭をたたいたり、蹴ったりする
- 髪を引っ張る
- 思い通りにならないと、怒鳴ったり、ものをたたいて脅したり責めたりする
経済的暴力
- デートの費用をいつも払わせる
- 借りたお金を返さない
- 無理やりお金をださせる
言葉の暴力
- 体型や容姿についてけなしたり、嫌なことを言ったりする
- 別れたら死ぬと言う
- 自分に望ましくないことが起こるとお前のせいだと責める
精神的暴力
- 勝手にスマホや携帯の履歴や内容をチェックする
- 友だちとの約束より、自分との約束を優先させる
- 他人との交流を制限する
- 無視や怒ったり、優しくなったりを繰り返す
- 自分の好みの服装や髪型をおしつける
性的暴力
- 嫌がっているのに体に触ったりキスや性行為をしたりする
- 避妊に協力しない
- 裸の写真を送って欲しいと頼む
出典:デートDVって・・・なに? ~考えてみようよ、ホントに大切なこと~|デートDV予防啓発冊子
デートDVを防ぐ方法

デートDVは、気付かないうちに関係が支配的になってしまうことが特徴です。恋愛だからこそ「愛情表現」と思い込み、DVのサインを見逃してしまうこともあるのです。
では、デートDVを未然に防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。
まずデートDVに気づく
デートDVは、暴力がなくても「恋人なら当然」と思い込んでいる行動の中に潜んでいることがあります。
「恋愛関係であれば許される・許す」「このくらいは普通」という思い込みが、知らないうちに相手を支配したり、支配されたりする関係になってしまうことがあるのです。
- 相手を好きだからこそ無意識に我慢してしまう
- 愛情を証明するために、相手に合わせようとする
こうした行動が積み重なると、「普通の恋愛観」という思い込みによって、自分自身がデートDVの「支配―被支配」の関係を推し進めている可能性があります。
デートDVを防ぐためには、まず「普通の恋愛観」という思い込みに気付くことが大切です。
恋愛の価値観を見直す
「普通の恋愛観」として、恋人は自分と一体の特別な存在であり、何でもさらけ出すことが信頼や愛情の証だと考える人は多いでしょう。
しかし、この価値観では、二人の間に「他者性」がなくなり「相手は自分のもの」という感覚に陥りやすくなります。その結果、「自分の気持ちを分かってくれて当然」「分かってくれない相手がひどい」この気持ちの大きさを伝えるために「怒鳴ったり叩いてしまうのは愛があるが故だ」と暴力を正当化しやすくなります。
さらに、「恋人は自分と一体だから、恋人を叩くのは自分を叩くようなもの、だから問題ない」という感覚もあります。しかし、恋人も「自分とは違う一人の人間」です。それぞれに価値観があり、「相手に求められることに応えない=愛情がない」わけではありません。「普通の恋愛観」に自分自身が縛られていないか、今一度振り返ってみましょう。
正しい「同意」について知る
正しい「同意」について知ることも大切です。「相手/自分が嫌だと言わなかったから」は、同意にはなりません。「流れでいつの間にかセックスすることになった」「相手に合わせたらもっと好きになってくれるかな」など相手の顔色を伺う関係は、対等な関係ではないのです。正しい「同意」とは、対等な関係での明確な「YES」だけです。
また、「同意」を示す際、判断基準となるのが「バウンダリー(boundary)」という概念です。バウンダリーとは、自分と他人の間にある目には見えない境界線を指し、これが侵されないことで、精神的にも物理的にも安心安全が守られるものです。お互いのバウンダリーを主張し、尊重しあうための正しい「同意」をしめすことが、「支配―被支配」の関係であるデートDVを防ぐことにつながるのです。
バウンダリーや同意について詳しく知りたい方は、以下の記事もチェックしてみてください。
デートDVを受けた時の対処法

相手の行為に「No」と言えるかどうか、そしてあなたの「No」に相手が対応してくれるかどうかで、あなたとパートナーの関係がデートDVにあたるかを判断できます。
ここでは、実際にデートDVを受けた時の対処法について示します。
あなたは悪くない!自己否定しないで
最も大切なのは、「デートDVを受けた側に非はない」ということです。これは、明らかな身体的な暴力だけでなく、精神的な圧力や支配行動などのデートDVについても同様です。
例えば、「勝手にスマホをチェックされる」ことについて「嫌だ」と言ったのに行為が持続され、相手の態度や機嫌、反応を気にして「No」と言えなくなってしまった場合は、それはれっきとしたデートDVにあたります。
バウンダリーを主張したあなたを、「恋人には隠し事はせず全てさらけ出すべきだ、それができないのは愛情が足りないからだ」と相手が非難しても、何も罪悪感を感じる必要はないのです。あなたは人として当然の権利を主張しただけであり、あなたの自信や自由、安心・安全を損なう相手の行為や言葉、態度には応えなくてもよいのです。ましてや、その対応が、あなたの愛情がない証明にはなりません。
現状を整理し、自分の気持ちを受け止めよう
デートDVを受けたと思ったら、まず客観的にその状況を整理することが大切です。
行為が起こった時の日時、場所、相手と自分の行動や言動を整理し、自分はどの部分に対し、「これってDVかもしれない」と感じたかを分析します。とはいえ、デートDVを受けた時、冷静に分析するのは難しいものです。
まずは、今の状況に「つらい」「困っている」という自分の気持ちをただ受け止めて肯定してあげてください。自分の気持ちをまず考え大切にすることは、相手を大切にすることにもつながります。次に、信頼できる第三者に話を聞いてもらい、客観的な視点で状況を整理してもらいましょう。そうして初めて、自分と相手の対等な関係について考えることができるようになるのです。
一人で抱え込まないで、相談しよう
デートDVを受けたと感じたら、早めに公的な相談窓口に連絡することをおすすめします。具体的な相談窓口には、以下のようなものが挙げられます。
配偶者暴力相談支援センター / DV相談ナビ
電話番号:#8008(はれれば)
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター
電話番号:#8891(はやくワンストップ)
友人に相談するのも1つの選択肢ですが、デートDVについての専門的な知識がないため、適切な対応を受けられない可能性があります。現状を知っている人を確保する目的で状況を伝えておくことは有益ですが、友人だけでデートDVに対応することは控え、最初の相談相手は公的な専門機関が望ましいでしょう。
デートDVとDVの違いを理解し、正しい対処法を知ろう

恋愛関係でもDVが存在すること、そして暴力だけでなく、「支配―被支配」の関係が問題だと理解することが重要です。「恋愛関係なら許容しなければ」「これくらいなら普通」といつの間にか思い込んでいないか、いま一度、自分の気持ちや同意について考えてみてください。