ベッドの上で膝を抱えて落ち込む女性

つらい性交痛…もしかして心因性?考えられる原因と対処法【医師監修】

2025.01.24
川合 厚子 先生
監修
川合 厚子 先生
クリニック院長
内科、精神科を担当 医学博士、日本内科学会総合内科専門医、日本精神神経学会専門医、公認心理師、労働衛生コンサルタント、産業医

性交のたびに腟の入り口がヒリヒリしたり、奥に痛みを感じたり…「性交痛」に悩んでいませんか?性交痛があると、性交渉に消極的になってしまうこともあります。

病院を受診して身体的な異常が見つからない場合、その原因は「心因性」である可能性もあります。

本記事では一般的な性交痛の原因を解説するとともに、性交痛が心因性だった場合の治療や対処法など、具体的な解決策をご紹介します。

性交痛とは?

性交痛の痛む箇所の図

性交痛とは、性交渉によって生じる腟内の痛みのこと。女性性機能不全(female sexual dysfunction:FSD)の症状の1つとされ、主に腟の入り口付近が痛む「入口部性交痛」と腟の奥が痛む「深部性交痛」に分けられます。

女性性機能不全では、性交痛のほか性的欲求の低下、性的快感やオーガズムが得られないなどの症状も含まれます。実際、性交痛に悩んでいる皆さんの中には「そういえば、私も…」と、思い当たる方も多いのではないでしょうか。

女性性機能不全は決して珍しいものではなく、年齢にかかわらず40〜50%の女性が、何らかの症状に悩んでいるとも言われています。原因は身体的要因と精神的要因(心因性)があり、適切な治療や対処法を取り入れることで、改善が期待できます。

性交痛の主な原因

性交痛の多くは、腟の「うるおい不足(濡れない)」が原因とされています。腟がうるおっていなければ、挿入時に摩擦が生じ、痛みを引き起こす場合があります。

この「うるおい不足」には、身体的な要因から精神的な要因(心因性)が関係していることも珍しくありません。

ここでは、うるおい不足を引き起こす主な6つの原因を紹介します。

不十分な前戯

性交渉で挿入に至るためには、お互いの体に触れて性的興奮を高める「前戯」が欠かせません。十分な前戯を行うことで、腟内がうるおうと同時に、性交渉に対する緊張がほぐれ、男性器をスムーズに受け入れられるようになります。

一方で、うるおいが足りない状態で無理に挿入しピストン運動をすると、摩擦による性交痛が生じるだけでなく、腟内が傷ついて出血が起こることもあります。

身体的な特徴

身体的な特徴は、性交痛を引き起こす要因の1つです。例えば、腟がせまい場合や、処女膜が生まれつき厚く硬い「処女膜強靭」の状態では、挿入時に痛みを感じやすくなります。

また、コンドームの原材料であるラテックスにアレルギーがあるケースも、性交痛を感じやすくなると言われています。

腟粘膜の萎縮

腟内がうるおうためには、腟粘膜の血流が十分に増える必要があります。しかし、更年期に伴うエストロゲン(女性ホルモンの一種)の減少や、出産後のホルモンバランス変化などが原因で、腟粘膜が萎縮する場合があります。こうした変化によって血流が低下し、腟のうるおいが不足することがあるのです。

感染症・炎症

性交痛以外に、性器のかゆみや異臭、おりものの変化が見られる場合は、感染症や炎症を疑ってみましょう。例えば、クラミジア感染症や細菌性腟症、トリコモナス腟炎、性器カンジダ症などが挙げられます。これらの感染症は、産婦人科で適切な治療を受けることで、改善が期待できます。放置せず、早めに受診しましょう。

婦人科系の病気

生活習慣病の1つである動脈硬化によって、腟がうるおいにくくなる可能性もあります。動脈硬化では血管の外側、血管壁が硬くなるため、腟内の血流も増えにくく、うるおいが十分に得られるまでに時間がかかることも珍しくありません。

このほか、腟の入口ではなく、奥が痛む「深部性交痛」の場合、子宮内膜症や子宮筋腫、卵巣腫瘍などの婦人科系疾患の可能性もあります。このような症状が続く場合は、一度産婦人科を受診してみると良いでしょう。

精神的な問題(心因性)

性交痛に限らず、女性性機能不全の背景には、身体的要因だけでなく、心身の影響が複雑に絡み合っているケースが多い傾向にあります。身体的な問題が見当たらない場合には、精神的要因(心因性)の可能性を考えてみましょう。

例えば、ストレスや緊張、妊娠や性感染症、性交渉を行う環境、パートナーとの関係性などあらゆることが精神的な不安に繋がり、うるおい不足を引き起こすことがあるのです。また、一度痛みを感じてしまうと「また性交痛が起こるかも」とさらに不安になる悪循環に陥るケースも少なくありません。

心因性の性交痛とは?

顔を隠して悲しむ鏡越しの女性

心因性の性交痛とは、米国精神医学会が2013年に定めた分類(DSM-Ⅲ-R)の性機能不全のうち「性交疼痛障害」にあたります。この中には、性交疼痛症と腟けいれん(ワギニスムス)が含まれます。

米国精神医学会によると、心因性性交痛とは、身体的な異常が見られないにもかかわらず、性交渉の際に痛みを感じる状態とされています。例えば、ペニスを挿入しようとすると、腟の入口周辺の筋肉が不随意(自分の意思とは関係なく身体が動いてしまう状態)に収縮し、挿入が困難となることがあります。無理に挿入しようとすると、女性だけでなく男性にも痛みが生じることがあるため、痛みを感じた場合は挿入を中断し、潤滑ゼリーを使用するなどの工夫が必要です。

先に紹介した精神的な問題のほか、過去のトラウマや社会的・文化的な影響、自己肯定感の低下が原因として知られています。

心因性の性交痛への対処法は?

心因性の性交痛にも対処法はあり、そのいくつかは日本産婦人科学会のガイドライン等でも紹介されています。ここでは具体的な5つの方法をご紹介します。

潤滑ゼリーを使用する

心因性性交痛を緩和する、即効性がある対処法として、潤滑ゼリーの使用が推奨されています。これは、日本産婦人科学会の産婦人科診療ガイドラインでも紹介されている方法です。潤滑ゼリーの代表的な例として、日本家族計画協会が開発したリューブゼリーがあり、薬局・薬店、インターネットでも購入できます。

物理的な潤いを補うことで、摩擦による痛みを軽減する効果が期待できるでしょう。

リラックスできる工夫をする

精神的な不安や緊張を解くための工夫も取り入れてみましょう。例えば、入浴で体を温めたり、ストレッチをしたりすると、全身の血行がよくなりポカポカと体が温まります。結果的に腟内の血流も増え、うるおいに繋がる可能性があります。

リラックスする時間を、日常生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。

環境を整える

環境への不安が原因でうるおい不足に繋がっている可能性がある方は、状況を変えてみるのも1つの方法です。例えば、同居家族がいる自宅で「誰かに見られるかもしれない」という不安がある場合、宿泊施設等を使用するのも良いでしょう。このほか、間接照明を使用したり、好きな香りを取り入れることで、リラックスできる雰囲気を作ることができます。

自分一人で悩まずにパートナーに相談する

性交痛について一人で悩んでいる方は、パートナーに相談してみましょう。心理的な問題を共有することで、痛みの軽減に繋がる場合があります。また、妊娠を希望しない場合には、挿入に頼らない性交渉で満足を得る方法を模索してみるのもよいでしょう。

医療機関や専門機関へ相談する

ゼリーやリラックスのための工夫、パートナーの相談によっても改善が見られない場合、また性交渉や挿入時の痛みに対する恐怖感がある場合は、産婦人科やカウンセリングなどの専門機関へ相談してみましょう。

治療法として、自分の性器を観察して身体の理解を深める方法や、腟ダイレーターという狭窄予防のための器具を使ったトレーニングなどがあります。また、カウンセリングや、行動療法といった精神療法を中心とした治療にも一定の効果が認められています。

性交痛の原因が身体的な問題であった場合でも、本人がコンプレックスを感じたり、パートナーに罪悪感を抱いてしまったりすることがあるため、心身両面からのケアを重視し、適切なサポートを受けることが大切です。

心因性の性交痛は一人で悩まないで!パートナーと協力して心のケアを

向かい合って話し合うカップル

心因性の性交痛に悩んでいる方は、一人で抱え込まず、まずはパートナーと協力して解決を目指してみましょう。パートナーと悩みを共有することで、不安や孤独感が軽減されることがあります。

また、必要に応じて産婦人科だけでなく、精神科や心療内科などの医療機関を頼ることも一案です。心のケアなどの適切な対策をとることで、心因性の性交痛が改善し、心身ともに健康的な性生活を取り戻せる可能性もあります。

まずは、パートナーに相談することから始めてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

医療ライターはらぺこサムネイル

医療ライターはらぺこ

製薬会社、大学病院勤務を経て医療ライターに。これまでにインタビューした医師は300人以上。ヘルスケアについて、専門知識をかみくだいて分かりやすく紹介します!

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