生理前に訪れる不快な症状。特に気分の落ち込みや激しいイライラなど、精神的な症状が強いものをPMDD(月経前不快気分障害)と呼びます。
今回は、PMDDの症状やPMS(月経前症候群)との違い、対処法についてお伝えします。
生理前の重い症状に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
PMDDとは?
PMDDは、月経前に気分が激しく落ち込んだり、抑えきれないほどのイライラが湧き上がったりなど、精神的な症状が強く出るものを指します。
2013年にアメリカの精神医学会が作成したDSM‐5と呼ばれる診断基準では、PMDDは「抑うつ障害」のカテゴリに位置付けられました。「抑うつ障害」は、うつ病を含む幅広い気分障害のことです。
うつ病は慢性的で毎日続く抑うつ気分が特徴ですが、PMDDは月経前の限られた時期に症状が出現し、月経開始後には改善する点がうつ病との違いです。
日本の調査では、日常生活に影響が出るほどのPMDDは、100人に1.2人の割合で起こりうると報告されています。
PMDDの症状
アメリカ精神医学会の診断基準(DSM‐5)をもとに、PMDDの症状を確認してみましょう。
PMDDの症状は、以下の特徴を満たす場合が一般的です。
- ほとんどの月経周期のたびに起こり、月経が終わる頃に解消される
- 症状が出ている間、仕事や学校、人との関わりが難しく感じる
- 他の精神疾患による症状(うつ病、パニック症、パーソナリティ障害など)が悪化したものではない
具体的な症状として、以下のうち少なくとも1つが当てはまる場合があります。
1. 著しく気分が不安定になる
2. 著しいイライラや怒り、対人関係で問題が増える
3. 憂うつな気分や絶望感、自分はだめだという思考
4. 強い不安や緊張、または気分の高ぶりや苛立ち
さらに、以下の症状が加わり、合計で5つ以上の症状があることがPMDDの特徴です。
1. 仕事や学校、友人関係、趣味などの興味が減退する
2. 集中できないと感じる
3. だるさや疲れやすさ、気力の無さを感じる
4. 食欲が著しく変化し、過食または特定の食べ物を強く欲する
5. 過眠または不眠がある
6. 自分をコントロールできないと感じる
7. 胸の張りや痛み、関節痛・筋肉痛、体が膨らんでいる感覚、体重増加がある
これらの症状が当てはまる場合は、PMDDの可能性があります。
つらい症状に悩んでいるのであれば、婦人科や精神科・心療内科での相談を検討してみましょう。
出典:日本産科婦人科学会 日本産婦人科医会|産婦人科診療ガイドライン
PMSとの違い
PMSとPMDDの違いは「精神的な症状の強さと生活に与える影響の程度」です。
PMSでは、月経前の3~10日前から、腹痛・頭痛・むくみなどの身体的な不快感や、軽い気分の落ち込み・イライラといった精神的な影響が見られます。
一方、PMDDでは、気分の激しい落ち込み、制御できない怒り、不安感など、特に精神的な症状が強く、日常生活に大きな支障をきたします。
どうしてPMDDが起こるの?
PMDDが起こる明確な理由は、まだ分かっていません。そんな中、PMDDとの関係を指摘されているのが、アロプレグナノロンというホルモンです。
アロプレグナノロンは、女性ホルモンのプロゲステロンから作られ、気分を安定させる神経の働きに関与していると考えられています。
PMDD症状がある方は、症状がない方と比較して、黄体期のアロプレグナノロン量が少ないことが分かってきています。
PMDDの治療法
PMDDの代表的な治療法を紹介します。
カウンセリング
PMDDの症状を和らげるための治療法の第一選択肢として、カウンセリング(心理療法)が挙げられます。特に「認知行動療法」と呼ばれる手法が、PMDDに伴う気分の落ち込みやイライラを軽減するのに効果があるとされています。
カウンセリングでは、PMDDがもたらすネガティブな思考や感情のパターンを理解し、対処するスキルを身につけられるでしょう。
また、カウンセリングは薬物療法と併用することで、さらに治療効果が高まる場合があります。
出典:産婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編2023 P191
PMDDの薬物治療
PMDDの薬物治療には、以下のようなものが選択肢として挙げられます。
抗うつ薬(SSRI)
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、PMDDによる気分の落ち込みや憂うつ感を和らげてくれる効果があります。
主にうつ病に使用される薬で、効果が出るまでに2~4週間かかりますが、PMDDに使用する場合は短期間の使用でも効果を発揮しやすいため、症状が出る期間だけ薬を飲むこともできます。
ホルモン療法
PMDDの治療には、LEP製剤(低用量のエストロゲンとプロゲスチンの配合錠)が使用されます。
中でも、ドロスピレノンを含むLEP製剤は、PMDD症状の軽減に有効であることが確認されています。
出典:女性心身医学|大坪天平,精神科からみたPMS/PMDDの病態と治療
出典:産婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編2023 P191
漢方薬
PMDDでは、症状や体質に合わせ、加味逍遥散、桃核承気湯、当帰芍薬散、抑肝散などの漢方薬を使用することもあります。
東洋医学では、病気は「気」「血」「水」のバランスの乱れから生じると考えられ、PMDDも「気」と「血」の異常が原因である、と考えられているためです。
その他のお薬
PMDDの症状に応じて、他の薬も使用されることがあります。
例えば、痛みには鎮痛薬、むくみや胸の張りを強く感じるケースでは、利尿薬が使用されます。
日常生活に取り入れたいPMDDのセルフケア
ここでは、生活に取り入れやすいPMDDのセルフケアを紹介します。自分に合った方法を見つけ、ぜひ試してみてください。
症状日記をつける
PMDDの症状を把握するため、症状日記をつけてみましょう。以下の項目を記録すると、体調の周期を把握しやすくなります。
- 基礎体温
- 症状の内容や強さ
日記やアプリを利用し、続けやすい方法で記録を続けると、月経周期に応じた症状の変化が分かるようになるでしょう。
記録を活用したい方は、以下の記事もチェックしてくださいね。
生活習慣を見直す
生活習慣の見直しは、PMDD症状の緩和に役立ちます。特に、十分な睡眠と適度な運動が重要です。
睡眠時間の目安は個人差がありますが、6時間以上確保し、朝起きたときに「スッキリ感」があるかどうかを目安にすると良いでしょう。
また、日中は出来るだけ体を動かす機会を増やし、運動不足の自覚がある方はウォーキング程度の運動から始めるとよいでしょう。
禁煙を心がける
「禁煙」と聞くと、とても高いハードルのように感じるかもしれません。
「この先一生、1本もタバコを吸わない!」と最初から完全にやめようとするのではなく「試しに禁煙してみようか」くらいの軽い気持ちで始めると取り組みやすいでしょう。
禁煙外来で医師と相談したり、市販のニコチンガムやニコチンパッチなどの禁煙補助剤を使用したりするのも効果的です。
食生活のバランスに配慮する
PMDD症状が気になるときに意識したいのが、栄養バランスの良い食生活です。特にしっかり摂りたい栄養素は、以下の通りです。
- 炭水化物
- たんぱく質
- マグネシウム
- カルシウム
- ビタミンB6
これらは神経を安定させ、気分を保つのに役立ちます。
一方で、以下の成分は控えめにしましょう。
- 精製糖
- 塩分
- 脂肪分
- カフェイン
- アルコール
これらは一時的な気分の浮き沈みや体調不良を引き起こすことがあります。
サプリメントを活用する
PMDDの症状を和らげるために、ホルモンバランスをサポートするサプリメントが補助的に役立つ場合があります。
たとえば、大豆イソフラボン由来の成分であるエクオールは、エストロゲンに似た働きを持ち、ホルモンの変動が原因で起こる症状の軽減が期待されています。
また、チェストベリーはヨーロッパで古くからPMSに使用されてきた西洋ハーブで、日本でもOTC医薬品としてドラッグストアや薬局で購入できます。
出典:産婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編2023 P191
リラックスできる方法を取り入れる
アロマテラピーや鍼灸などで、心身ともにリラックスする時間を取りましょう。リラックスタイムは緊張をほぐし、副交感神経を優位に導く効果が期待できます。
ラベンダーやゆずの芳香浴を10分行うと、交感神経の働きを抑え、副交感神経を優位にし、気分が改善したとの研究結果もあります。
PMDDの症状が疑われるときは?
PMDDの症状が疑われる場合、適切な対応を取ることが大切です。
医療機関を受診しよう
強いイライラや気分の落ち込みなどの自覚がある場合は、精神科や心療内科の受診を検討しましょう。
PMDDなのか判断が難しい場合、婦人科での相談も選択肢の1つです。
また、精神症状が強く、日常生活に支障をきたす場合は、精神障害者保健福祉手帳の交付が受けられるケースもあります。手帳の申請には医師の診断書が必要ですので、主治医と相談しましょう。
家族やパートナーにも相談を
PMDDの時期にさしかかると、気持ちを落ち着けることが難しいかもしれません。そのため、月経が終わり症状が落ち着いている時期に、家族やパートナーとPMDDについて話す機会を作りましょう。
もしかしたら、家族やパートナーも、優しく介抱した方がよいのか?それとも見守るだけの方がよいのか?と、対応を迷っているかもしれません。
まず、PMDDがどのような症状で、どのような影響を与えるのかを簡単に説明しましょう。
「月経前に気分が激しく落ち込むことがあり、支えてもらうと助かる」
「声をかけてくれるだけで気持ちが落ち着く」
「そっとしておいてもらいたいときがある」
このように具体的に伝えることで、家族やパートナーもサポートしやすくなるでしょう。
PMDDかな?と思ったら我慢は禁物。医療機関を受診しよう
月経に伴う症状の中でも、特に強い精神症状を伴うPMDDは、生活習慣の改善やストレスの軽減、薬物治療など、いろんな角度からアプローチが可能です。
PMDDの症状について事前に家族やパートナーと話し合っておくと、穏やかな月経期間を過ごす助けとなるでしょう。
気になる症状がある方は、早めに医療機関を受診し、適切な治療やサポートを受けましょう。