「生理は順調だったのに、30代に入ってから急に不規則になった」「もともと生理不順だったけれど、そういえばしばらく生理が来ていない」そんな変化に心当たりはありませんか。
生理に関する悩みは人に話しづらく、つい見過ごしてしまいがちですが「生理が来ない」というサインは、決して軽く考えてはいけません。実は、こうした症状の背景に「早期閉経:医学的には早発閉経(早発卵巣不全)が正式名称」が隠れている可能性もあります。放置すると、将来の妊娠や健康へのリスクにつながることもあるのです。
この記事では、より正確な知識をお伝えするために「早発閉経」という言葉で統一してご説明します。
早発閉経について知ろう
まずは、早発閉経について正しい情報を身につけましょう。
早発閉経ってどんな病気?
閉経とは、卵巣機能が低下し、月経が永久に停止する状態を指します。多くの女性では45歳~55歳の間に閉経を迎えますが、中には40歳未満で閉経する方がいます。この状態を「早発閉経」または「早発卵巣不全(Primary Ovarian Insufficiency:POI)」と呼びます。
発症頻度は、30歳未満で約1000人に1人、40歳未満で約100人に1人と報告されています。女性の健康・生殖・心理に深く関わる重要な疾患です。
早発閉経はどんな症状が出る?

早発閉経になると、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌の減少によって、以下のような症状が現れます。
- 4か月以上にわたる無月経または月経周期の乱れ
- ほてりや発汗、動悸などの更年期症状
- 不眠、気分の落ち込み、集中力の低下
- 疲れやすさや全身のだるさ
これらは通常の更年期障害と似ていますが、発症年齢が若いことが大きな特徴です。
早発閉経はなぜ起こる?
早発閉経の原因にはいくつかの要因がありますが、以下のように分類されます。
原因別でみる特徴
明確な原因が特定できないもの。全体の75%以上を占める
【代表的な例】
-
染色体異常によって引き起こされるもの
【代表的な例】
ターナー症候群、脆弱X症候群など
自己免疫疾患が関与するもの
【代表的な例】
甲状腺疾患、全身性エリテマトーデス、糖尿病など
医療行為(治療や手術)によって引き起こされるもの
【代表的な例】
抗がん剤や放射線治療、または卵巣の手術など
先天的な代謝やホルモン異常によるもの
【代表的な例】
ガラクトース血症、FSH受容体異常など
特に特発性の場合は、予防が困難であり、発症して初めて気づくケースも少なくありません。
早発閉経の診断のポイント
「生理が来ない」「周期が不規則になった」と感じたとき、すぐに閉経を疑うのではなく、まずは正確な診断が必要です。
早発閉経はどのように診断される?
早発閉経は、下記のような3つの診断基準を満たす場合に診断されます。
- 40歳未満
- 4か月以上の無月経
- 血中ホルモン値異常(卵胞刺激ホルモン:25〜40 mIU/mL以上、エストラジオール:20 pg/mL以下)
ホルモン値は日によって変動があるため、1か月以上の間隔をあけて2回測定することが推奨されています。
生理周期が変化した時に考えられる病気は他にある?
「生理がないこと=閉経」とは言い切れません。若くても月経が止まる要因には、以下のようなものが挙げられます。
- 妊娠
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
- 視床下部性無月経
- 腫瘍など
生理周期の乱れにはさまざまな要因が関係するため、正確な診断には慎重な検査と鑑別が必要です。
早発閉経を放置するとどうなる?

「生理がなくなって楽になった」と感じる方もいるかもしれませんが、早発閉経を放置してしまうと、思いもよらない健康リスクにつながる可能性があります。
身体への影響
閉経に伴い、体内のエストロゲンが著しく減少します。エストロゲンは、骨や血管、皮膚、脳などに広く作用する重要なホルモンであり、分泌が低下すると、以下のような病気のリスクが高まります。
- 骨粗しょう症:骨密度の低下により骨折リスクが高まりる
- 心血管疾患:エストロゲンが減ることで、動脈硬化が進行しやすくなり、高血圧、心筋梗塞、脳卒中などのリスクが上がる
- 脂質異常症や糖尿病:ホルモンバランスの変化が代謝に悪影響を及ぼす
また、妊娠を希望している場合、不妊症も大きな問題です。早発閉経により排卵が停止し、卵巣に卵子が残っていない状態になると、自然妊娠はほぼ不可能となります。早期に妊娠を希望していた方にとって、大きな喪失感につながる可能性があります。
精神的・社会的影響
若い年齢での閉経は、本人にとって非常にショックな出来事です。女性としての自信を失ったり、将来の不安からうつ状態になることもあります。早発閉経は人には相談しづらく、孤独感を抱える方も少なくありません。
早発閉経の治療と妊娠への対策

早発閉経と診断された場合、心身の健康を維持するための治療やケアが必要です。妊娠を希望する場合の対策についても解説します。
ホルモン補充療法(HRT)
ホルモン補充療法(HRT)は、エストロゲン欠乏による更年期に関する諸症状の改善と骨・血管の保護を目的に行う治療です。
いわゆる「ピル」に比べて血栓のリスクは少なく、若い女性ではHRTのリスク(不正出血などのマイナートラブルから、乳がんや脳血管障害などのリスク上昇)よりも、ホルモン補充による長期的な健康のメリットが上回ります。そのため、閉経年齢である50歳前後まで継続することが推奨されています。
内服薬や貼付薬、外用薬など様々な方法があるため、自分に合う治療法を医師と相談しましょう。
心理的ケア
早発閉経は身体的な影響だけでなく、精神的なダメージも大きい疾患です。若い女性の発症では、特に抑うつ・孤立感・喪失感が強く、心理支援が不可欠です。
必要に応じて、カウンセリングやピアサポート(同じ経験を持つ人との交流)を受けることで、自分だけではないと感じ、前向きな気持ちを取り戻せることもあります。
妊娠を希望する時には
早発閉経の方が自然妊娠する確率は4.4%と言われており、非常に低い数字であることがわかります。妊娠を希望する場合、主に以下の選択肢が考えられます。
体外受精
不妊治療の中でもっとも妊娠確率の高い治療法ですが、早発閉経の方における成功例は多くありません。
卵子提供
海外では早発閉経に対する唯一の有効な不妊治療とされています。第三者から採取された卵子をパートナーの精子と受精させる治療法です。現状日本では認められていないものの、徐々に法整備が進んできており、今後の展望が期待されています。
卵子凍結
がんの治療や卵巣の手術などでは、卵巣機能が低下する可能性があります。将来的に妊娠を希望する場合、こうした治療を受ける前に、自分の卵子を凍結保存しておくことも選択肢の1つです。
AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査
妊娠を考えている方はブライダルチェックとしてAMH測定を検討しても良いでしょう。AMHは卵巣内にある残りの卵子の数を示す指標となるホルモンであり、低い場合は早急に妊活を進めるきっかけになります。
早発閉経と診断されたら?日々のケアと定期チェックのすすめ
早発閉経と診断された後の生活のポイントを解説します。
生活習慣を整える
閉経後には、生活習慣病や骨粗しょう症のリスクが高まることが知られています。以下のような取組みを日常に取り入れ、健康的な生活を送ることを心がけましょう。
- 禁煙
- 適度な運動
- バランスの良い食事
- ビタミンDとカルシウムの摂取(骨粗鬆症予防)
定期検査を受けて体の変化を見逃さない
閉経後は心臓・血管系の病気や脂質・糖代謝異常、骨粗しょう症が起きやすいので、定期的な健康診断(血圧、脂質、血糖、骨密度測定など)を受けましょう。
婦人科で継続的なフォローを受ける
ホルモン補充療法の相談や更年期症状の改善法など、正しく自分の体と付き合うために、かかりつけ医を作りましょう。また、定期的な婦人科のがん検診を受けることも大切です。
早発閉経を正しく理解し、将来に備えよう
月経が来ないことは一時的に「楽」と感じるかもしれませんが、それを放置すると、将来の妊娠・出産の可能性や健康に大きな影響を与えることがあります。
「最近、生理の周期が乱れてきた」「なんとなく体調が変わってきた」と感じたら、できるだけ早く婦人科を受診しましょう。
一人ひとりのライフプランに合った適切なサポートや治療が受けられるよう、正しい知識を身につけておくことが、自分の未来への大切な備えとなります。