頭の中が不安や心配でいっぱいになって、何もしていないのにぐったり疲れてしまう。
SNSや情報の波にさらされて、心がどんどん消耗していく──そんな感覚、ありませんか?
この記事では「思考のケア」という視点から、マインドフルネスを使ったセルフメンタルケアのヒントをお届けします。
「がんばらなくていい」「うまくやらなくていい」からこそ、続けられる“今に戻る”練習です。
「脳が疲れる」ってどういうこと?
不安や心配で頭の中がいっぱいになると、私たちは思っている以上に脳のエネルギーを消耗しています。
実際、心理学では「反芻(はんすう)思考」という概念が知られていて、過去の失敗や未来の不安を何度も頭の中で繰り返してしまう状態が、メンタル不調の一因になると考えられています。
脳科学の視点からも、ぼーっとしているときに働く「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という機能が、何もしていなくても“自動的に”考えすぎの状態を引き起こしていると分かってきました。
つまり、何もしていないつもりでも、脳はずっと働き続け、結果として心まで疲弊していくのです。
なぜ「心のケア」に“脳”や“思考”が関係しているの?
「メンタルケア」というと、なんとなく“気持ち”や“心の持ちよう”といったイメージがありますよね。
でも実際には、私たちの“心”は、脳の働きと密接につながっています。
不安やストレスを感じたとき、脳は「扁桃体(へんとうたい)」という部分が反応し、危機から身を守るために警戒モードに入ります。
この状態が長く続くと、思考をつかさどる前頭前野の働きが鈍くなり、物事を冷静に考える力や集中力が落ちてしまうのです。
また、反すう思考(過去や未来のことを繰り返し考え続けるクセ)は、この警戒状態をずっと維持させてしまい、結果として心が休まらなくなる原因に。
つまり、心をケアするには、まず脳のモードを落ち着かせること=思考のケアがとても大切なんです。
ここで役に立つのがマインドフルネス。
「今に戻ってくる」練習を通して、過剰に働く脳の回路をやさしく沈め、心の余白を取り戻していく──
それがマインドフルネスがメンタルケアと深く結びついている理由なんです。
“マインドフルネス”っていつから、なぜ広まったの?
マインドフルネスという言葉は、もともとは仏教や禅の教えに由来しています。
しかし現代の私たちが目にする「マインドフルネス」は、医療や心理学の分野で再解釈されたもの。
アメリカの医学博士ジョン・カバットジンが1979年に提唱した「マインドフルネス瞑想(MBSR)」が起源とされ、
その効果が科学的に実証されるようになったことで、世界中に広がりました。
日本でマインドフルネスという言葉が一般にも知られるようになったのは、2010年代に入ってから。
ビジネス界ではGoogleが社内研修に取り入れたこと、医療や教育の分野でも活用が広まり、
「集中力を高める」「ストレスを軽減する」技法として注目されるようになりました。
近年では“働きすぎの社会”や“情報過多な日常”に疲れた現代人の「心の回復法」として、
多くの書籍やアプリでも紹介されています。
つまりマインドフルネスは、一部の人の特別な習慣ではなく、
“自分を整えるための共通語”として、じわじわと定着してきているのです。
スコーンで”今”に戻ってきた私

ある日、カフェで記事を書こうとしていた私は、
「締め切りまでに完成しなかったらどうしよう」
「今日はあんまり集中できていないかも」
そんな未来への不安にすっかり飲み込まれていました。
でもふと目の前を見ると、
そこには、さっき注文したチョコチップスコーン。
「あ、そうだった。これ食べたかったんだ」
スコーンの甘い香りに気づいた瞬間、
私は“いま、ここ”に戻ってきた感覚がありました。
不安が消えたわけじゃない。
でも、思考の嵐がいったん静まって、「私は今ここにいる」と思えた。
たったそれだけのことが、意外なほど心を落ち着かせてくれたのです。
マインドフルネスって難しくないの?
「マインドフルネス」と聞くと、座禅を組んで瞑想したり、
心を無にしないといけないようなイメージがあるかもしれません。
でも本当は、もっとシンプル。
「今この瞬間の自分に気づいていること」
それだけで、もうマインドフルネスなんです。
呼吸に気づく。
目の前の食べ物の香りや味に集中する。
「今、私は不安を感じてるな」と静かに観察する。
どれも立派な“今に戻る”練習です。
「うまくやろう」としなくてもいい。
気づけた自分を、そっと肯定するだけでいいんです。
今に戻った“その後”に生まれるもの
じゃあ、スコーンに戻ってきた私は、結局その後どうしたのか。
正直に言うと、記事は1行も進んでいませんでした(笑)。
でも、不思議と焦りは和らいでいて、ふとこんな気持ちが湧いてきたんです。
「私は、なんのためにこの記事を書こうとしてたんだろう?」
そう考えたとき、
“誰かの心に寄り添いたい”という、書くことの原点に立ち返ることができました。
そのとき初めて、「じゃあ、とりあえず1文だけ書いてみようかな」って思えた。
焦りからではなく、自分の内側から湧いてきた行動でした。
マインドフルネスは、問題を解決する魔法ではありません。
でも、不安や思考に飲み込まれていた自分を、そっと“戻して”くれる。
そのおかげで、行動を“選べる自分”に戻れるのです。
今日からできる“今に戻る”3つの小さな練習
マインドフルネスは、特別な技術じゃなくて、日常の中でほんの少し意識を向けることから始められます。
1. 朝、歯磨き中に泡の感触や香りに意識を向けてみる
2. スマホを開く前に「今、どんな気持ちで開こうとしてるのか」1秒立ち止まる
3. 夜、眠る前に「今日あった心地よかったこと」をひとつ思い出してみる
どれも数秒でできること。
でもその1秒が、思考の渦を止めるきっかけになります。
おわりに:自分の中に静けさを見つけるということ
不安になるのも、焦るのも、人間らしいこと。
でもその中に埋もれてしまったときこそ、
自分を“戻してあげる”小さな練習を思い出してほしいのです。
チョコチップスコーンに気づくことだっていい。
深呼吸ひとつだっていい。
「今、私はここにいる」と感じられたとき、
あなたの中に小さな静けさが広がっていくはずです。
そしてその静けさの中で、
「私は本当は、なにをしたい?」と自分に問いかけてみてください。
あなたの中にある“好き”や“伝えたい想い”が、
ふたたび行動のエネルギーとして灯るかもしれません。