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最近話題の「卵子凍結」そのメリットや知っておきたいポイントを解説【医師監修】

2025.03.04
中里 泉 先生
監修
中里 泉 先生
あらかきウィメンズクリニック
日本産科婦人科学会認定専門医/医学博士

近年、芸能人やインフルエンサーが「卵子凍結をした」というニュースを耳にするようになりました。助成金を出す自治体や企業も増え、少しずつ注目を集めている卵子凍結ですが、「そもそも卵子凍結って何?」「どのような流れで行うの?」「費用やリスクは?」など、疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、卵子凍結についての基本からメリット・リスクまでわかりやすく解説します。

そもそも卵子とは?

お腹に優しく触れる女性

まずは、卵子とは何か、妊娠はどのように成立するかその基本を知りましょう。

卵子と妊娠

卵子とは、女性の卵巣内にある生殖細胞のことです。卵子の中には核があり、その中に染色体と呼ばれる遺伝情報が含まれています。人間の染色体は通常46本ですが、卵子と精子は半分の23本ずつを持ち、受精することで46本に戻ります。

思春期以降、女性の体は脳の下垂体から分泌されるホルモンの影響を受け、およそ1か月に1回排卵が起こります。このとき精子と出会えば受精が成立し、受精卵になります。さらに、その受精卵が子宮内膜に着床することで、妊娠が成立するのです。

卵子はいつ作られるか?

卵子は、女性が胎児のときにすでに作られているため、新しく増やすことはできません。

妊娠5か月ごろには約700万個が存在しますが、出生時には約200万個、生理が始まるころには約30万個にまで減少します。そのうち、一生のうちに排卵されるのは約500個で、残りは自然に消滅します。

30代後半になると卵子の減少が加速し、やがて1000個程度になると閉経を迎えます。このように、卵子の数は加齢とともに減る一方で、新しく作られることはないのです。

年齢と卵子の質の低下

卵子は胎児期に作られるため、「自分の年齢=卵子の年齢」です。

排卵されずに卵巣内にある間も、卵子は少しずつ老化し、質が低下します。加齢に伴い、染色体の分裂異常が起こりやすくなり、受精卵の発育が正常に進まなかったり、流産のリスクが高まったりします。

一般的に、妊娠1回あたりの流産率は約15%ですが、40歳以上では約50%にまで上昇します。

ピルで卵子を温存できる?

ピルには排卵を抑える効果があります。そのため、「排卵しなければ卵子を温存できるのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、卵子は毎月約1000個が自然に消滅しているため、排卵を止めても卵子の減少を防ぐことはできません。

また、卵子の質は年齢とともに低下するため、ピルを飲んでいても加齢による質の低下を防ぐことはできないのです。

卵子凍結とは?

卵子凍結とは、未受精の卵子を複数採取し、凍結保存することを指します。

その目的と適応

パートナーがいる場合、多くは受精卵(受精した卵子)を凍結するため、卵子凍結とは異なります。いわゆる体外受精との違いは「受精卵を凍結するか、未受精の卵子を凍結するか」という点です。

卵子凍結の目的は、卵子を保存し、将来の妊娠に備えることです。適応には、以下の2つのパターンがあります。

① 医学的適応

がんなどの病気による抗がん剤や放射線治療で卵巣機能が低下する可能性がある場合、治療前に卵子を凍結しておくことで、治療後に妊娠を望む選択肢を残すことができます。

② 社会的適応

現時点で妊娠の希望はないものの、将来に備えて卵子を保存しておきたい場合が対象です。

近年、②の社会的適応による卵子凍結が注目されており、多くは未婚女性によって行われています。一方で、パートナーがいる場合は受精卵を凍結したほうが妊娠率が高いため、卵子凍結よりも受精卵の凍結を選択するケースが多い傾向にあります。
卵子凍結では、凍結した時点の卵子の質を維持できるため、年齢を重ねた後に妊娠を希望する場合、加齢による卵子の質の低下という問題を回避できる可能性があります。

卵子凍結の流れ

卵子採卵の図

卵子凍結の一般的な手順は、以下のとおりです。

① 卵巣刺激

生理が始まったら、複数の卵子を育てるために排卵誘発剤を注射します。卵子の発育を確認するため、2週間程度の間に2~3回の通院が必要です。ただし、自宅で注射できるキットがあるため、毎日病院に通う必要はありません。

② 採卵

卵子が十分に成熟したタイミングで、超音波で確認しながら腟から卵巣に針を刺して卵子を採取します。

③ 卵子凍結

採取した卵子が成熟していれば、凍結保存します。

④ 妊娠希望時の融解・受精・移植

妊娠を希望するタイミングで、凍結卵子を融解し、精子と受精させます。受精後、約5日間培養し、子宮内へ移植(胚移植)します。

なお、複数の受精卵ができた場合は再度凍結し、次回の移植に備えることも可能です。

卵子凍結の費用と補助金

現在のところ、卵子凍結の費用は全額自費診療となります。施設によりますが、1回の採卵あたり30~40万円程度かかります。

また、凍結期間中は毎年の更新費用が必要であり、凍結卵子を使用する際も、受精や移植にかかる費用はすべて自費診療となります。

費用面で悩む方も多いですが、自治体や企業によって助成金制度がある場合もあるため、事前に確認するとよいでしょう。

知っておきたい卵子凍結のポイント

卵子凍結を検討している方に向けて、事前に理解しておくべき重要なポイントを解説します。
卵子凍結に適した年齢がある
日本生殖医学会の報告によると、卵子凍結の対象は成人女性で、採卵時の年齢が36歳未満が望ましいとされています。40歳以上での採卵は推奨されていません。

また、高齢出産のリスクを考慮し、凍結卵子の使用時の年齢は45歳未満が推奨されています。ただし、施設によって年齢制限や保存期間の基準は異なるため、事前に確認することが大切です。

妊娠を100%保証するものではない

卵子凍結では、複数の卵子を採取し保存しますが、妊娠までには以下のプロセスをクリアする必要があります。

  • 卵子が成熟しているか
  • 凍結・融解に耐えられるか
  • 精子と受精するか
  • 子宮に着床するか

このため、採取したすべての卵子が妊娠につながるわけではありません。

2017年に発表された論文によると、36歳未満で20個の卵子を凍結できた場合、約90%の確率で最低1人の出産が可能とされています。100%の成功率を求める場合、理論上50個程度の卵子が必要となります。

一方、40歳で卵子凍結を行う場合、90%の確率で1人の出産を目指すには約60~70個の卵子が必要とされます。仮に100個の卵子を凍結しても、100%の確率で妊娠・出産できるわけではありません。

採卵手術のリスクがある

採卵は手術の一種であり、完全にリスクがないわけではありません。発生しうるリスクとして、以下のようなものが挙げられます。

  • 卵巣出血
  • 腸や膀胱などの損傷
  • 腹腔内感染

また、排卵誘発剤の使用による「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」のリスクもあります。

OHSSになると、血管内から水分が失われ、腹水が溜まることがあります。重症化すると血栓症を引き起こし、命に関わる可能性があるため、注意が必要です。

母体年齢が上がると妊娠中のリスクは上昇する

卵子は凍結時の年齢のまま保存されますが、母体(子宮や全身の健康状態)は加齢の影響を受けます。年齢が上がるにつれ、、以下のリスクが上昇します。

  • 子宮筋腫・子宮内膜症のリスク増加 → 着床しにくくなる可能性
  • 妊娠糖尿病・妊娠高血圧症候群のリスク増加
  • 早産・常位胎盤早期剥離のリスク増加
  • 赤ちゃんの死亡率の上昇

このため、凍結卵子を使用すれば必ず安全に出産できるわけではないことを理解しておく必要があります。

凍結した卵子を使用しないことがある

卵子凍結が先行して行われている海外の報告では、卵子を凍結した人のうち妊娠したのは20%で、80%は妊娠していません。

さらに、妊娠した人のうち、凍結卵子を使った妊娠は5.2~7%にとどまり、半数以上が凍結卵子を使わずに妊娠しているというデータがあります。

つまり、卵子を保存していても、結局使用しないケースが多いのが現状です。

卵子凍結は将来の妊娠の可能性を広げる選択肢の一つですが、必ず妊娠・出産できるわけではない点に注意が必要です。

上記のようなポイントを踏まえ、リスクとメリットを理解したうえで、慎重に検討することが大切です。

卵子凍結は女性のライフプランを広げる選択肢の1つ

仕事をする女性

20代から30代前半のいわゆる出産適齢期とされる年代の女性にとって、この時期は仕事とキャリアの両立に悩むことが多いものです。
卵子凍結は、リスクや費用といった課題もありますが、「今は予定がないけれど、いつか子どもを持ちたい」と考える方にとって、有効な選択肢の一つとなる可能性があります。
妊娠や出産のタイミングを含め、自分の人生プランを改めて見つめ直すきっかけにしてみましょう。

この記事を書いた人

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ピカエナ

webライター。産婦人科系の情報を中心に発信しています。休日はアフリカのサファリで動物の写真を撮っています。

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